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Lee-Byung-hun addicted

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『タチュルコヤ』 (9)

『タチュルコヤ』 (9)

「全くどうしてこんなになるまで我慢してたんだろう」
僕はベッドに横たわる揺の寝顔を見つめながらそう思った。
気を使ってないように見えるけど実は人一倍気配りをする揺の性格はわかっているつもりだった。
やっぱりこっちでの暮らしに疲れてるんじゃないだろうか。
こんなことがあると今まで心配していなかったことまで気になりだす。
僕はいたたまれず、布団の中から眠っている揺の手をそっと出してゆっくりとさすった。
小さくて白い手はとても温かい。



目が覚めると私は病院のベッドに横になっていた。
手には点滴が刺さっていた。
そして傍らには彼が座って居眠りをしている。
穏やかな寝顔を眺め彼の頭をそっと撫でた。
「・・・目覚めた?気分どう?揺・・なんで我慢したんだよ。たぶんインフルエンザだって。」
彼はそういいながら私に布団を掛けなおした。
「うそ。みんなに移しちゃったかもしれない・・。お爺様大丈夫かしら。あなたも・・これから忙しくなるのに・・」
「お爺様は予防接種うってあるし、丈夫だからきっと大丈夫だよ。もちろん僕も。揺は自分の心配だけしていればいいから。」
私の髪をそっと撫でる彼の様子がいつもとちょっと違う。
ふと気づくと彼の右足は包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「うそ・・・もしかして私・・・」
朦朧としながら歩いていて階段に足をかけたことだけ覚えている。
彼が何かを言って・・・そうだあの時私は・・・・
「どうしよう。どうしよう。これから映画撮るのに・・・。私のせいだ」
自分の仕出かしてしまったことの大きさに私はどうしたらいいのかわからなくてそういったままずっと涙が止まらない。
彼のほうが泣きたいだろうに・・私の涙が止まらない。



「大丈夫だから心配しないで」
自分のせいだとポタポタと大粒の涙を落とす揺を抱きしめながら僕はそう何度も繰り返した。
「まだ2ヵ月もあるんだからそれまでには絶対治るから何にも問題ないさ。ほら、揺が具合がよくなっちゃったからさ、僕が看病しなくてよくなっただろ。だから神様が4月まで揺に甘えていいよってきっと僕に二人の時間をプレゼントしてくれたんだよ。だから揺は早く良くなって僕の面倒きちんと見てくれないと困るな。僕の足が治るまでずっと拘束だ。」
それが僕の本心だった。
そしてこの言葉で揺の気が少しでも楽になってくれることを祈る。
きっと当人の僕よりも何倍も後悔して何倍も焦っているに違いない・・揺、君はそういう人だから。だから大好きだけどだから心配なんだ。
涙を僕のシャツで拭きながら困ったようにそっと微笑む彼女を見て僕は少しだけ安心した。


彼の冗談はとても優しい。
おかげで少し気持ちが楽になった。
きっと彼のほうが焦りもあって私の何倍も辛いだろうに・・・。
笑って冗談を言って私を楽にしてくれる彼・・・彼のシャツには私の涙で大きなしみが出来た。
彼の胸はいつも温かい。
だから私は微笑むことが出来るのだ。


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